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キレのあるビジネスホテル

第二次大戦後の国際通貨体制を決めたブレトンウッズ会議の舞台、米国ニューハンプシャー州にあるマウント・ワシントン・ホテルも一時、経営難になった。
そして、いまプラザ合意で知られるニューヨーク・プラザ・ホテルが一部をコンドミニアムなどに改修するため閉鎖された。 プラザ合意からまもなく二十年。

国際通貨体制は再び転換期を迎えた。 ユーロがドルのライバでは、どう人民元の通貨制度を改革するか。
K資本市場研究所シニアフェローは、変動幅の拡大、通貨バスケットへのリンク、クローリング・ペッグが軸になると指摘する。 移行期を経た最終目標は完全フロートだが、肝心なのは人民元改革を国際通貨システムのなかにどう位置づけるかだ。
そこには人民元を含める新しい通貨協調の仕組みがいる。 通貨バスケットを、円を含む東アジア通貨単位(ACU)に発展させることも考えられる。
日本の役割は重要だ。 日中間の政治的あつれきを超えて人民元改革に伴う先物市場の創設や金融システム改革など日本の経験も踏まえて知的支援することだ。
日本は人民元改革で大合唱団の一員ではすまない。 通貨が映す多極世界一プラザ合意二十年後の現実とその時代。
プラザ会議を呼びかけたのは米議会の保護主義圧力に気を配るB米財務長官だったが、主役は「円高大臣」を自認するT蔵相だった。 放任主義のR政権にとって市場介入の活用は大きなカケだったが、その成否は日本の出方にかかっていた。
円に代わって、いま国際通貨の舞台で主役に躍り出たのが中国人民元である。 二%の切り上げは小幅だが、ドル・リンクをはずし、通貨バスケットを参考にする改革は「小さくて大きな第一歩」といえる。
T元米財務次官は「人民元がドルにリンクし、他のアジア通貨が人民元につながるブレトンウッズUがこれで終わった」と評価する。 人民元改革は国際的大合唱を受けて実施された。
米中主導の「第二プラザ合意」ともいえる。 中国人民元が国際通貨として登場しようとしている。
プラザ時代には考えられなかった展開である。 国際通貨の激動は、多極化する世界を映し出している。

プラザ合意は何をもたらしたか。 一九八五年九月二十二日、ヒッチコック映画「北北西に進路を取れ」の舞台にもなったこの名門ホテルで取材していて、ある種の熱気を感じる。
ドル高是正のための先進五カ国(G5)の合意はどこまで効果を発揮するか。 久々に通貨の季節がやってきた実感があった。
それ以上に、円の時代が来るかもしれないという興奮があった。 日米貿易不均衡の拡大に、セオドア・ホワイトは第二次大戦になぞらえて「日本からの危険」という論文を書いた。
米国を訪れた日本の経営者が「米国に学ぶものはもうない」と豪語していた時代である。 Gとその時代プラザ合意で浮上したのはドル・円・マルクによる三極通貨構想だった。
基軸通貨ドルの負担を軽減し地域基軸通貨の円とマルクが支えるという構想だった。 しかし、それは幻に終わる。
まず自立した金融政策を重んじる西独が通貨協調から離脱する。 超低金利を長引かせてバブルを生んだ日本には「失われた時代」が待ち受けていた。
いままた三極通貨構想が語られる。 「米ドルを中心にした戦後の国際通貨体制は欧州、アジア、米州の三極通貨体制への移行過程にある」と、K大教授はみている。

戦後の国際通貨体制はドル基軸の絶対性が薄れる過程といえる。 金ドル・リンクのブレトンウッズ体制は絶対的なドル基軸だった。
ベトナム戦争で米国経済が疲弊するなかでN大統領は一九七一年、ドルと金の交換停止を宣言する。 そしてスミソニアン合意で国際通貨はフロート時代に移る。
それでも相対的なドル基軸は維持されてきた。 そのドル基軸に、ユーロは挑戦するのか。
ユーロの守護神、ECBの幹部は「ユーロの国際的役割は高まったが、ドルと張り合うつもりはない」と語る。
その一方で、フランスとオランダが国民投票でEU憲法の批准を否決したことでユーロが揺らぐという見方には否定的だ。
ユーロ懐疑派のロンドン・シティーのエコノミストもイタリア離脱はありえないとみる。 英国がユーロに加わるときユーロはドルの対抗通貨になるだろう。
第三の極、アジアはどうか。 人民元が本物の国際通貨と認知されるのは、通貨バスケット、動幅拡大など移行期を経て、完全フロートを実現するときだろう。
その前提は不良債権処理などそのうえで円、人民元、韓国ウォンなどアジア通貨のバスケット、ACUを創設することだ。 ACU建て債券市場を育成し、アジア版EMS(欧州通貨制度)をめざす。
ここまでは現実的課題だが、アジア版ユーロとなると、遠い夢である。 国際通貨の変遷は多極化する国際システムの反映でもある。
冷戦後の世界は米国の独り勝ちとみられたが、イラク戦争で影響力が揺らぐ。 深化と拡大を遂げたEUは構造問題を抱えながらも、ぼっこうしぶとく生き延びる。
中国などアジアの勃興は二十一世紀を支配する。 では、三極通貨体制はうまく機能するのか。

通貨覇権をめぐって三極で抗争が起きれば、世界は不安定になる。 米国が財政赤字を削減し、欧州は構造改革に取り組む。
日本は改革をテコに成長路線を取り戻す。 政策協調が一層重要になる。
何より大事なのは、国際通貨の新興地帯である東アジアを政治的緊張にさらさないことだ。 中国の民主化と日中和解は通貨安定の条件でもある。
プラザ合意は市場に「情報本位制」を根づかせた。 それは東アジアの緊張を見逃さないだろう。
東アジアを国際通貨危機の震源地にではなく、安定地帯にしなければならない。 金融改革である。
十八年半、というかくも長き在任中に日本の首相は十二人、N銀総裁は五人が就いた。 米大統領に次ぐ「世界のナンバー2」として世界経済を導いてきたA氏がFRB議長の座を来年一月に去る。
GのあとにGなし。 そういわれるなかで、後を継ぐBCEA委員長には重圧がかかる。
G時代は世界経済の歴史的な勃興期である。 そのなかで、ひとり日本は立ち遅れた。

この時代はほぼ日本の「失われた時代」にあたる。 G後の空白を埋めるため、こんどは日本が役割を果たす番だ。
「B後継」に驚きはない。 P大で机を並べてきたA教授(FRB元副議長)もそう読んでいた。
「だれもG氏のような個人としての信任はない。 これから市場にテストされることになる」と一言っていた。
G氏でさえ、P氏の後任に指名されたときには不安があった。 「街のエコノミストにFRBのスーパーマンのあとが務まるのか」といわれたものだ。
それが、なぜ法王のように長く君臨できたのか。 歴代大統領が議長交代による信頼の危機を恐れたためだが、それだけではない。
逆説的だが、G氏自身は主役ではなく脇役であり続けようとしたからではないか。 「カリスマ」とか「巨匠」とか呼ばれて、本人は面はゆい思いをしていたに違いない。
「市場に敬意を払い、市場を恐れる」と議長就任時に語ったように、経済の主役が市場であることを熟知していた。 市場のひだを読む「市場の中の金融政策」はそこから生まれた。

政治のひだも読んでいた。 政治が主役であることも知り抜いていた。
多彩な政治人脈は独立性を損なうどころか武器になった。 プラザ合意の時代、ウォール街のオフィスを何度も訪ねた。


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